« 2007年2月 | トップページ | 2007年4月 »

2007年3月30日 (金)

『玲玲の電影日記』(夢影童年)

監督:小江 
出演:夏雨 姜易宏 
2004中国 

 30代以上の中国人にとって文化大革命はやはりどうしても忘れることのできない歴史の記憶でしょう。その中で映画が生活の中で切っても切り離せないものとして存在したことも、さまざまな中国映画の中に描かれているところです。今回紹介するのはそんな1本。文革期まだ幼児だった女性監督による少女期~現代の物語。昨年初夏に日本では公開されました。以下は『トーキング・ヘッド』28号(アトリエ・サード2006・10)に掲載したものから、一部転載します。

      **********************************************************

 1972年生まれの小江監督が自分と同年の少女を主人公とし、文革後の中国西北部の田舎街寧夏を舞台に描いたある母娘の物語である。題名の示すとおり、この映画の一方の主人公は、もともと女優志望だった母が出産によって進路を阻まれながらも生きる拠り所とし、また母と同じく女優にあこがれ、やはり挫折するその娘も愛する映画の数々である。
 文革中、映画女優を目指す娘が恋をし妊娠する。恋人は逃げ、ひとり、子を産んだ彼女は街の人々に迫害されるが、当時上映可能だったアルバニア映画『寧死不屈(Victory over death)』に励まされ洗濯婦となって娘玲玲を育てる。母に好意を寄せる映写技師潘叔叔に可愛がられ、落第坊主の転校生毛小兵と仲良くなり、野外映画会を楽しみに玲玲は幸福な少女時代を送る。文革が終わり、その間上映禁止だった『馬路天使』(監督=袁牧之)が上映される日、母娘と小兵は街の映画館に繰り出すが満員で入ることができない。1937年に作られた上海映画の名作はこんなふうによみがえったのだ。厳しい思想統制の中でも人々の中に生き続けていたロマンへの渇望が解放される歓びに満ちた場面である。
 やがて家族に虐待された小兵が安徽省の祖母のもとに去り、母が潘叔叔と結婚し弟が生まれると彼女の幼い日は終わる。貧しい生活のなかでの弟への愛や嫉妬が描かれる。女優への道よりは上級学校への進学を強いる両親との確執が、TVにおされて野外映画上映会も最後という日、彼女の過失とも言える弟の死を招き、彼女と両親の早い決別を招く。そして物語は大人になり大兵と名乗る小兵の、北京での玲玲との不思議な再会へと展開する。
 母娘の、洗濯婦の貧しい暮らしには不似合いなおしゃれな服装、未婚で出産しつるし上げられた彼女が数年後には街の人気者になるその過程、義父に殴られ聴力を失い、中学にも行かず家出して一人住まいの部屋いっぱいに映画機材などをそろえる玲玲の暮らし振り、彼女が、北京に出てきて胡同に暮らす老いた両親をどのようにして見つけ出し、どのようにしてその両親の住居を見下ろす部屋を手に入れることができたのか、またあまりにも偶然性の高い毛大兵との再会など、細かく見ていけば不自然さが目につく映画である。
テーマそのものも、前半は母の人生を描いているのだが、中盤に至って児童映画化して感動を強要する強引な転換で、率直なところ人生とか人間とかが本当に描けているのかという疑問も残るのだが、この映画の語り手となる毛大兵を演ずる夏雨がとても生き生き映画を愛し、好奇心と同情をもって幼馴染の人生を辿ろうとする青年を演じていて、求心力がある。おもな登場人物は全員映画大好き人間で、なにより野外映画会で次から次へと上映される60年代の中国映画が興味深い。中国映画好きにはやはり必見の一本であろう。
 中国の人々は概して日本人よりはずっと映画好きだと思われるが、それをよく示しているのは中国映画によく登場する野外映画である。やはり文革を描いた『中国の小さなお針子』(2002年監督=戴思傑)にも下放された学生が任務として朝鮮映画『花売り娘』を見に行き、村人たちに語るという場面があった。字も読めず、バイオリンも見たことがない山村の人々にとって映画は外の世界への唯一の扉であったのだろう。(小林美恵子)

| | コメント (0)

« 2007年2月 | トップページ | 2007年4月 »