2008年3月29日 (土)

墨攻

監督:張之亮(ジェイコブ・チャン)

出演:劉徳華(アンディー・ラウ)范冰冰 安聖基 王志文

2007中国・香港・韓国・日本

 

 藤井省三東京大学教授の講ずる中国の文学と映画についての社会人講座(カルチャーセンター)の受講生たちを中心とする中国映画愛好グループでは、毎年2月、前年2月から次の1月までに日本上映された作品を対象として金蟹賞という賞を決めています。とはいっても、グループ内で楽しむだけで、受賞作品の製作者に賞金を差し上げたり、授賞式にお招きするわけではないのですが・・・でも、藤井教授はじめ錚々たる中国映画の権威?の集まりなので、それなりに信頼のおける作品鑑賞にはなっていると思っています。

 さて、今年度の圧倒的支持を得た金蟹賞受賞作品は『墨功』でした。この作品は酒見健一の小説を森秀樹が漫画化したものを原作としており、映画化に際しても日本、香港、中国、韓国と東アジアの合作になりました。

 以下、小林が「トーキング・ヘッド」30号(アトリエ・サード社)に書いた映画紹介から一部抜粋して紹介します。

         

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 四カ国の合作映画である。原作は日本人、スタッフにも日本人が参加し、演技陣は大陸、香港それに韓国から。ことばは普通話で、主人公革離を演じる劉徳華(アンディ・ラウ)を含めほとんどの出演者の台詞は吹き替えられているようだ。日本公開版では趙の武将巷淹中を演ずる韓国の安聖基がなぜか訛のある中国語を自分の声でしゃべっているが、これは「異国」の敵役という設定ゆえか。で、最初は吹き替えが耳についたのだが、意外にもだんだん気にならなくなり、どんどん映画の世界に引き込まれる。

 墨家の孤独な戦略家革離が攻め込む趙から梁城を守り撃退するが、戦いによって多くの人命が無辜に失われることに悩み、民衆を味方につけたことで梁王の不信を買って謀反の罪を着せられ、やがて再び攻めてくる趙軍と対決する。その間には騎馬隊をひきいる女性とのほのかな交流もあるが、最後はかなり悲劇的。激しい城攻め、防城をさまざまな技術を駆使して見せ、娯楽映画としての水準を保ちながら、この卓抜した戦略能力の持ち主革離を、戦に悩む男としてあたかも修行僧のような面もちに描くところに、戦そのものを肯定しないジェイコブ・チャンらしい社会的な視点が現れている。最後に子供たちをつれて城を出ていく革離の姿が胸に沁みる・・アンディ・ラウの、こういう感じで心に苦悩を秘めながらストイックなポーカーフェイスというのも『インファナル・アフェア』以来のはまり役。というわけで、ああ、これはまさに香港映画のウェットだと思う。

 砂漠のような黄土平原、切り立つ岩山、そこにそびえる城郭、繰り広げられる戦いというのは中国を舞台にした時代劇-武侠映画の典型のひとつだし、近年は、それらに大陸だけでなく香港、韓国、日本の俳優・スタッフなども参加しての合作というのも流行りだ。日本公開作で言えば『ヘブン・アンド・アース(天地英雄)』(中国03/監督=何平)『MUSA(武士)』(韓国01/監督=キム・ソンス)があるし、『プロミス』(中国04/監督=陳凱歌)『ヒーロー』(中国・香港02/監督=張藝謀)などもこの系列の作品と言えるかもしれない。で、思うに、前二者はあきらかに異文化接触が重要な要素を占めるストーリーで、日本人や韓国人の役者が中国にとっての「異文化」人を演じるところに意味を持つ作品。後二者は舞台を中国(らしき所)にしてオリエンタリズムをかもしだしはするものの、むしろ無国籍性を意図した作品といってよく、そこに登場する人々も生身というより記号化された象徴的人物の印象が強い。どちらにしても戦いは殺して勝つべきものとしてあり、反省や悩みも希薄で、流れるのは乾いた空気。ストーリー展開は巧みで見て楽しめるが、終わってしまうと余韻などとは無縁の作品という感じだ。

 そこで、この『墨攻』。中国の役者演じる父王に、韓国人の王子、香港から来た家臣や兵士たち。入り乱れる各地の役者たちが『プロミス』のような無国籍社会ではなく、しっかり中国古代のひとつの物語を演じる。それはある意味で真の合作といえるし、吹き替えはそれを成立させるための必然的な要素であったのかもしれない。そして全体をジェイコブ・チャンらしい社会派ヒューマニズムが覆ってこの作品をいかにも香港らしいウェットな武侠映画にしあげているのだと思える。完成度の高い作品だ。

 ただし、ひとつ疑問が残る。梁城の騎馬隊長として最初は颯爽と登場する主要人物のうち唯一の女性逸悦(范冰冰)。役者としての彼女は騎馬のみならず、高い崖から水中に飛び込んだり(本人がやっているのかどうかは知らないが)、首まで水に漬かっての演技(寒い中10時間近くも水中にいたらしい)とか、大奮闘だが、役柄としては苦労のわりに報われないというか、男を助けたいと思いながら、男に助けられ、男の助けを待ち、結局助からないというなんだか割りの合わない人生を送る女性で、心情表現も控えめ。革離の孤独をさらに際立たせるための設定かとも思うが、それにしても・・・・

ジェイコブ・チャンはかなり間口の広い人で、さまざまなジャンルの映画を作っているが、男女の関係を描く純粋な恋愛映画というようなものより、ストーリーでも役者でも男性中心の映画、女性中心の映画とはっきり分けて作る傾向があるようだ。『籠民』(92)『流星(流星語)』(99)などは男性中心映画だが、これらでは女性の主要人物はほとんど出てこないか、出てきてもあまり共感を誘うようには描かれない。一方で女性の人生を描いた名作『黄昏のかなたに(飛越黄昏)』(89)はもとより、『女ともだち(自梳)』(97)『夜間飛行』(01)のように複数の女性の共感や友情を描いて見ごたえのある映画もあるが、これらの映画の中の男性も多くはなぜか彼女たちの苦しみの源になる存在で、魅力的には描かれない。女性たちが男性に立ち向かうというより、苦しめられ苦しみつつ女性どうしの円環の中に共感を求めるというのも、そういえば共通している。まさか彼は男女がともに愛し合い助け合い、ともに生きるような人生を信じていないわけではないのだろうが・・・香港映画には戦う女性もけっこう登場するし、それが「らしさ」でもあって魅力的なのである。せっかく原作にない女性を登場させた「男性」映画『墨攻』でこそ、香港の女性ファイターの伝統を生かした生き生きした女性を見、さらなる香港映画らしさを味わいたかった、というのは贅沢な望みだろうか。(小林美恵子)

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2008年1月26日 (土)

家有囍事

監督:高志森
出演:黄百鳴 張國榮 周星馳 
1992 香港

 あけましておめでとうございます!というと少々時期がずれている感じもしますが、中国ではご存じの通りお正月は旧暦で祝います。今年は2月6日が過年、7日が春節です。
 さて、映画館ではこの時期「賀歳片」といって、新年を祝うおめでたい正月映画が上映されます。オールスター総出演で歌ったり踊ったり、ドラマもあり最後は出演者が並んで拱手し「恭喜發財!」と挨拶をして終わり、というもので、内容的には他愛のない喜劇、ことば遊び的なしゃれなどもあって、香港ローカルな内容もあったりして一般的でないせいか、あまり日本で公開されることはないのですが、その年どんな風俗で、どんなことが流行っていたか、どんな明星が人気があったかとか結構わかりますし、中には傑作とされている作品もあります。今回はそんな1本、少々古いのですが、92年春節に香港で大ヒットしたお正月映画『家有囍事』をご紹介します。
 この映画はもともと88年周潤發(チョウ・ユンファ)主演でジョニー・トウ監督が作った『僕たちは天使じゃない』という映画のリメイクで、香港のある家庭の三兄弟の愛や恋を描いています。長男に扮するのはこの映画のプロデューサーでもある黄百鳴で、彼は自らも出演するこのような旧正月コメディをたくさん製作し数々のヒットを飛ばしました。次男は亡き張國榮で、この映画のレスリーは彼のゲイ演技史の上でも必見。『覇王別姫』のコメディ版といってもいいかも・・三男を演じる周星馳は『少林サッカー』や『功夫』などで、今や香港の喜劇王。今年も『長江七号』という父子の情と宇宙人?をからめた新作コメディで春節の話題をさらっているようですが、さてこれは日本公開なるか・・・・
 対する女性陣ですが、長男の妻は香港のコメディエンヌとしてはナンバー1といっていい呉君如(サンドラ・ン)、かつてレスリーの恋人と噂されたこともあり、結婚・出産を経て活動を再開した毛舜筠(テレサ・モウ)、そしてまだ初々しい張曼玉(マギー・チャン)でいずれも若々しくてイキのいい姿です。浮気者で妻をないがしろにする長男に怒り家を出て花開く長男の妻、一日TVの前に座っている三兄弟の両親とそれを世話する長男の妻、両親とは従姉妹にあたり、年は若いけれど三兄弟にとっては「おば様」になるテレサ・モウのバイクを駆って活発に動き回る姿、いっぽうフラワーデザインや料理に打ち込む次男坊レスリー。この映画あくまでも軽く楽しく描きながらも、実はフェミニズム・ジェンダー・高齢者問題などにも肉薄?していると思わせるところがただ者ではない・・・若いプレイボーイ三男と女朋友マギーの恋には『欲望の翼』『ゴースト・ニューヨークの幻』『プリティ・ウーマン』『ターミネーター2』など当時ヒットした映画のパロディも盛り込まれ、ほんの一瞬東京ロケもありで楽しめます。
 特にレスリー迷にとってはよく知られた作品ですが、日本では劇場未公開。レスリーの死後日本語字幕付きのDVDが発売されました。  

このお正月中国では・・・・・ 


『投名状』(陳可辛監督 劉徳華 李連傑 金城武)VS『集結号』(馮小剛監督)    
 お正月を広州ですごしましたが、中国映画ではこの2本がともに大入りという感じでした。前者は清朝末期太平天国の乱を舞台とした義兄弟もので昔あった『ブラッドブラザーズ』のリメイク。ピーター・チャン監督の初の?時代ものでもあります。後者は1948年国共内戦からおよそ10年を描いた、これもバリバリの戦争映画+共産党賞揚映画の気配もあり、中国の社会状況の映画への反映について少々考えさせられます。そのほかには夏雨・曽志偉・ジジ・リョンの喜劇『棒子老虎鶏』、王家衛がジュード・ロウ、ノラ・ジョーンズら欧米の俳優を使って撮ったフランス・香港合作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(藍苺之夜)などが上映中。最後の王家衛作品は『重慶森林』(恋する惑星)みたいな話で、3月には日本でも公開されます。(小林美恵子)                               

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2007年11月27日 (火)

『スパイシー・ラブ・スープ』(愛情麻辣湯)

監督:張楊

出演:呂麗萍・濮存昕・王学兵・邵兵・徐静蕾・郭濤・徐帆

1998中国

                                             

お待たせました。10月11月とあまりの忙しさに電影倶楽部お休みさせていただいて申し訳ありません。2008年最後にご紹介するのは張楊監督の98年のデビュー作『スパイシー・ラブ・スープ』です。張楊監督といえば『こころの湯』『胡同のひまわり』などをご覧になったかたも多いでしょう。いずれも中国現代の親子の情を描いて心に残る作品でした。

この『スパイシー・ラブ・スープ』は98年公開当時、中国では同時期に公開された『タイタニック』と人気を二分する大ヒットとなりました。1組のカップルの結婚にいたる道筋を挟みながら5つの小品からなるオムニバス映画で、それぞれ高校生、定年退職した女性、倦怠期を迎えた若夫婦、離婚寸前の夫婦とその息子、そして「二度と離れない」と誓った若い恋人どうしを主人公に彼らの悩みや工夫や、そして運命の皮肉?などを描いています。

出演俳優陣もかなり豪華で、呂麗萍(上海家族・青い凧)濮存晰(乳泉村の子)はじめ王学兵(我愛ni)邵兵(T.R.I・・織田裕二と共演)徐静蕾(我愛ni・傷だらけの男たち)郭濤(活きる・鳳凰わが愛)などが競演。監督作もあり、今や押しも押されもせぬ大女優の徐静蕾はまだ若くて驚くほど初々しいし、最近作中井貴一主演の中国映画『鳳凰我が愛』で中井の牢獄仲間を演じている郭濤も出演しています。『鳳凰』では郭濤演じる老良頭という男は出稼ぎ中に事故死した友人を背負って故郷に帰ろうとしたところを見とがめられ、殺人を疑われて獄中に35年にわたってとらえられるという役柄ですが、この設定は、今年東京国際映画祭で上映された『帰郷』を思わせます。この映画も友人の遺体を故郷に担いでかえる男の話です。そしてこの『帰郷』の監督こそが『スパイシー・ラブ・スープ』の張楊であるというのも何か因縁を感じさせられます。 

10年前ということで、変化の著しい中国では少々古くなってしまっているかもしれませんが、現代中国の都市生活の中での愛と人生の機微を味わえる作品です。

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この秋続々中国映画・・映画祭あれこれ(印象に残った1本ずつをご紹介します)

★山形ドキュメンタリー映画祭 「鳳鳴-中国の記憶」(王兵)50年代後半から反右派闘争での迫害の記憶を語る女性を3時間にわたって固定カメラで撮影。映画手法としては個人的には感心しなかったけれど、大賞を受賞。

★東京国際映画祭  「想い出の西幹道」(李継賢)文革後の田舎町を舞台に少年と一家の物語をドキュメンタリータッチで描き出す。印象的な作品。審査員特別賞受賞。

★中国映画週間「雲水謡」陳坤、ビビアン・スー主演の台湾・中国合作映画だが、ペースは完全に中国寄りで台湾はしてやられ、中国の底力を思い知らされる。へんな映画だが一見の価値あり。確か中国の映画賞、金鶏賞を受賞したはず。

★香港映画祭「天堂口」ダニエル・ウー、張震主演。これもお定まりの上海に夢をもとめ

黒社会に引き込まれていく若者たちの話だが、イケメン鑑賞にはもう最高という映画。

★東京フィルメックス「アイ・イン・ザ・スカイ」(ヤウ・ナイホイ)これはあまり期待もせずに見たのだがよくできた娯楽作品だった。香港警察の尾行班の若い見習女性刑事が主人公。一口でいえば女の子が先輩刑事に支えられ教えられ一人前になっていく事件を描く。人間の描き方がけっこう公平で暖かく好感が持てる。

★中国映画祭2007年 この映画祭は残念ながら未見。「スーツケース」「ぼくの最後の恋人」「恋する二人」「早熟」など公開してほしい映画がけっこうあるのだけれど。

                                  (小林美恵子)

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2007年8月19日 (日)

ヤンヤン夏の想い出

監督:エドワード・ヤン(楊徳昌)
出演:呉念真 エレン・ジン イッセー尾形 
2000台湾・日本

 6月29日、台湾の監督エドワード・ヤン(楊徳昌)が亡くなりました。1947年生まれ、まだ59歳でしたが、ガンで7年間の闘病ののちの死でした。生涯に残した映画は7本のみ。しかし、そのどれもがきわめて鮮烈で鋭い感覚に貫かれた、完成度の高い作品でした。最初の映画『海辺の一日(海灘的一天)』(83)でヒューストン映画祭のグランプリを取り、その後の『台北ストーリー(青梅竹馬)』(85)、『恐怖分子』(86)、『牯嶺街少年殺人事件』(91)『エドワード・ヤンの恋愛時代(独立時代)』(94)『カップルズ(麻将)』(96)と、どれも台湾の現代人の心理とか、社会とか、抱えた問題などを鋭く切り取り、印象的に残る作品です。なかでも私の印象に強く残っているのは、『牯嶺街少年殺人事件』。1960年代の台北を舞台に、外省人の一家の他所者的な不安に満ちた生活、その中で14歳の息子が同学の少女に淡い恋をし、最後に彼女を刺し殺してしまうまでのいきさつが、静かな静かな画面の中で高まっていく緊張とともに描かれます。最初と、少年が刑務所に送られてしまった後の最後にラジオから台北大学の合格者の氏名が流され、少年や一家が切望して得られなかったものを象徴するようなこの場面は身につまされるものでした。この少年を演じたのは『百年恋歌』に主演している張震で、父と兄も彼の実の父(張国柱)兄が演じています。また友人役の柯宇綸は張震とともに、その後の『カップルズ』にも主演し、『百年恋歌』にも60年代のビリヤード場の客として友情出演していました。今回ご紹介する『ヤンヤン・・』でも、向かいの高校生リリの新しい恋人役として、ちょっとだけ出ています。二枚目タイプではないのですが、なんか存在感のあるバイプレーヤーです。
 台湾に戦後渡ってきた外省人の家族を描いた映画では侯孝賢の『童年往事』(85)という作品も心に残っています。楊徳昌と侯孝賢、ほぼ同年で、ともに80年代から、台湾のインディペンデント系の映画を支え牽引してきた監督なのですが、張震や柯宇綸を共通して使うというだけでなく、実は楊監督は、侯孝賢の『冬冬の夏休み(冬冬的夏暇)』(84)に主人公の冬冬の父親役として出演しています。また、楊徳昌の『カップルズ』、それに『ヤンヤン・・』の父親NJ役を演じているのは侯孝賢の名脚本家、呉念真です。まあ、狭い狭い台湾映画界といってしまえばそれまでですが、このあたりも興味深いところです。

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 さて、今回ご紹介する『ヤンヤン夏の想い出』(00)は楊監督の早すぎる遺作になってしまいました。台北に住む一家、コンピュータ会社を経営する父、会社員の母、高校生の姉、8歳のヤンヤン、そして祖母。母の弟アディ(阿弟)の結婚式の日、彼の元彼女が結婚式になぐり込みをかけ、父は偶然に初恋の人と再会する。祖母は脳卒中で倒れます。母も、姉もそれぞれに悩みや鬱屈をかかえ、家族は昏睡状態の陥った祖母の枕元でこもごも悩みを語る。それを結構冷静な、透徹した目で見つめるヤンヤンの視線がいわばこの映画の語り手だといえるでしょう。そのヤンヤンにも幼い恋が芽生えます。経済的にも社会的にも恵まれた一家の人々の生きる難しさが描かれますが、それにも関わらず祖母と、そして幼いヤンヤンの視点がその人生に解決や救いをもたらす可能性として描かれています。比較的遠くにひいたカメラの長回しが特徴的ですが、その落ち着いた美しさも印象的です。2000年カンヌ映画祭監督賞を受賞作品。
 この映画は最初日本の岩井俊二、香港のスタンリー・クァンとで行われた共同企画のオムニバス映画の1本として企画されたようです。この共同企画自体は流れましたが、『ヤンヤン・・』はそういうわけで日・台合作となり、また岩井俊二はこのときの企画をもとに『リリィシュシュのすべて』(01)を作ることになったようです。イッセイ尾形が日本人大田の役で出演、味のある演技を見せています。ことばも普通話のほかに台湾語、英語が飛び交います。

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2007年7月16日 (月)

『ラブ・ソング』(甜蜜蜜)

監督:ピーター・チャン
出演:マギー・チャン レオン・ライ
1996 香港

 7月1日、1997年の香港返還から10年たちました。一国二制度の政治体制の下、香港の街は不況とは言われながらも夜景のきらめきは変わらず、ブランド製品やシルク製品などの洗練度も増し、2003年のサース危機も乗り越えて、相変わらず賑やかです。しかし、10年前にはほとんど聞くことがなかった普通話をしゃべる人はますます増え、大陸から来た人々の姿も目立ち、また広州などでビジネスをする香港人、香港人と大陸人の結婚なども確実に増えて、香港は中国の一都市であるという雰囲気はたまに行ってもあきらかに10年前とは違うことが感じられるようです。
 映画の世界でも同じ、香港の家庭の中で普通話をしゃべる(つまり大陸からの移民と設定された)祖父母がいたり、大陸人が香港人の恋人として登場したり、また大陸のマフィアが香港の黒社会とやりあうとかそんな設定が当たり前という映画が当たり前に生まれる状況は、もちろん大陸への商業戦略の意図もあってのことでしょうが、あきらかに10年前とは変わってきています。
 香港返還の前、10年ぐらいの香港では中国への復帰への不安からカナダやオーストラリアなどに移民する人が続出しました。このころは映画にも、移民をしようとバタバタと動き回る香港人が描かれたり(『金玉満堂』という面白いお正月映画があります)、夫や妻だけが先に移民してしまい残された配偶者どうしが恋におちる(『我愛太空人』=『あの愛をもう一度』「太空人」という語が流行語になった)などの映画が作られています。返還当時を描いた作品としては『花火降る夏』(陳果=フルーツ・チャン)などという映画もありました。また、返還後には女性監督メイベル・チャンが20年あまりの香港の学生生活から中年までと香港返還を重ね合わせた『玻璃の城』という作品を作っています。
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 さて、今回ご紹介する『ラブソング』は返還前の1985年ごろからの10年間、出稼ぎ人として大陸から香港に渡ってきた男女が出会い、心を通わせながらもすれ違い、やがて10年後、テレサ・テンの死を報じるTVを偶然にもニューヨークの街角で見ながら再会するという物語で、テレサ・テンの「甜蜜蜜」に乗せて語られます。天津からやってきた素朴な若者を演じるのは香港四大天王の一人、レオン・ライ(黎明)、北京出身の彼は香港にきても普通話しかしゃべれないという設定です。いっぽう彼に香港生活のすべを教え、自らの成功を夢見る広州娘がマギー・チャンです。映画の中の彼女は大陸出身であることを隠し、バイタリティあふれる暮らしぶり。
 大陸人が香港に出稼ぎに来、さらに一旗あげようとアメリカに渡って行くというのは、昔からある華僑の伝統的な行動パターンでもあって、ことさらに珍しい設定ではないかとも思われます。昨年紹介した『旺角黒夜』などにもこれは引き継がれていました。ただ『ラブソング』では二人が出会う街を返還を目前に浮き足立ちながら、人々が生き方を決めかねている香港としたところに、二人が浮き沈みしながらさらに他の町を目指す切実さが描かれた気がします。
 1997年の香港映画祭では確か、レスリー・チャンの『色情男女』と並んでこの映画が看板作品としてあちこちにポスター展示されていました。
 監督は『ウィンター・ソング』のピーター・チャン。香港から大陸に留学した映画青年を主人公にしたこの映画を『ラブ・ソング』と見比べると、この10年というものの重さを感じます。
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エドワード・ヤン監督 逝去
侯孝賢、蔡明亮と並ぶ台湾の監督エドワード・ヤン(楊徳昌)監督が亡くなりました。1947年生まれの59歳。あまりに早すぎる死でした。14歳の張震を中心にすえて撮影した大作『牯嶺街少年殺人事件』『カップルズ』『エドワード・ヤンの恋愛時代』、都会派でおしゃれでしかも人間性の奥を描く印象的な映画をつくる監督でした。とっても残念。

中国映画の全貌2007・・・7月21日~9月7日 新宿ケイズシネマで行われます。有名作品が丁寧に網羅されているようす。お暇を見ておでかけください。 

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2007年4月29日 (日)

『蟻 の 兵 隊』

監督:池谷 薫
2006 日本  

  今月の映画は、日本軍の命令で山西省に残留し、中国内戦を戦った旧日本兵の半生を描いたドキュメンタリーです。命令で残り参戦後捕虜として抑留されたのに勝手に残ったとされたという被害者的側面とともに、しかしその中国大陸では自らが殺戮に手を染めているという加害者としての面を免れ得ない老人の苦悩や後世にそれを訴えて、二度と同じことが起こらないようにしたいという意志に動かされる映画です。この映画は香港国際映画祭・人道に関する優秀映画賞を受賞したのをはじめ、いろいろな場で高く評価されました。昨年公開されたイメージフォーラムではロングランになり、その後日本各地で上映された後、5月12日からキネカ大森で再公開の予定です。
  以下は『人間と教育』(52号06・12旬報社)に小林が書いた映画評です。

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カメラの厳しい眼に耐える平和への意志

  映画の始まりは正月の靖国神社。参拝ではなく資料館に調査に来たという、八十歳の奥村和一さんが初詣の人々と話す。道端に座り、たこ焼きを食べながら彼と言葉をかわし、その経験に驚いて「日本政府ってひどいっすねえ」と言う、いかにも「今風」の若い女性。
  山西省日本軍残留は戦犯の訴追を免れたかった澄田睞四郎中将と国民党の閻錫山の間に結ばれた密約によって行われた。二千六百人の兵が残留して国民党軍に参戦せよとの命令を受け、うち五百五十人は戦死、七百人が共産軍の捕虜になった。彼らは日本帰国後、自分たちが戦後すぐに現地除隊となり、勝手に残留して自らの意志で中国内戦を闘ったとされているのを知る。そして二十年ほど前から、戦後の十年の残留が日本軍(政府)の命令であることを認め軍人恩給を支給せよと提訴してきた。映画の主人公、奥村さんはその一人で、軍が彼らに命令を出したことを証明する資料を求め、日本および中国を何度にもわたり調査してきている人だ。穏やかで知的な雰囲気のこの老人の強固な意志はもちろんだが、若い人とも隔てなく話す開放性、そのフットワークの軽さ、思考や感性の柔軟さ、そして真摯・率直な感情表現がこの運動を、そして映画をも支えているのだと感じられる。

   映画クルーは奥村さんとともにかつて彼が闘った山西省の村、寧武を訪ねる。それは日本軍の被害者を自認する彼が、自らの加害を確認する旅である。彼はこの村で受けた初年兵訓練の仕上げとして中国人を刺殺した。人を殺せる人間になったということは戦後六十年妻にも話せない傷になっているのであるが、自分にはそのとき状況が見えなかった、だから目撃した人の話を聞きたいと、彼は村人に迫る。奥村さんを取り囲み日本軍の残酷な侵略の状況を語りながら、決して感情的に彼を糾弾したりはしない中国の人々もすごい。 長年心に懸かっていた刺殺については、殺された人々が、奥村さん自身が考えていたような民間人ではなく、警備員として国民党に雇われながら共産軍に抵抗せず、国民党への反逆者として処刑されたのだとわかる。現場から逃げ出し、ただ一人助かったという人の息子からこの話を聞いて彼の表情は変わり、それなら殺されても仕方がなかったろうと言い放つ。映像は彼の冷酷な変化をあからさまに写し出す。あとで奥村さんは「自分はあのとき日本兵に戻っていた」「相手が罪のない民間人でなかったことが、自分にとって救いでなかったといえば嘘になる」と述懐する。彼の率直さは普通の人を残虐な鬼にする戦争の非人間性、恐ろしさをまざまざと私達に見せる。これはこの映画の持つ力でもある。

  彼はまた、日本軍に拉致されて四十日間にわたって「慰安婦」をさせられたという女性と話す。そのことが彼女のその後の人生を被差別者としてのつらいものにしたのだが、彼女は穏やかに経験を語り、そして妻には刺殺はじめ中国での自分の加害を語れないという奥村さんに、今のあなたは悪い人には見えない、もう話すべきだと諭す。このあたりもすごい。戦争が個人を越えて為す犯罪性、その中にまきこまれ加害や被害の体験に苦しみながら、それでもやけにならず、犯罪性に飲み込まれず知的に、きっちりと生き方を貫く人間存在の確かさがあるのだと感じる。私たちは自分のうちに、若い人々のうちに、戦争を体験することなくこのような知性を育て得るか。高齢の戦争体験者たちがカメラの厳しい眼に耐え、自らの加害を語る映画が問いかけるのは、まさにそのことである。

  二〇〇五年秋、山西省残留問題提訴は退けられた。今年夏、退任を前に小泉首相は八月十五日の靖国参拝を決行した。映画にも靖国神社で悪はしゃぎのように軍服、日の丸に身を固め天皇陛下万歳を叫ぶ人々、あの戦争は侵略ではなかったと叫ぶ人々が映しだされる。彼らの馬鹿さ加減がこれからの日本をどう導いていくのか不安でならない。「時間との競争です」という奥村さんの平和への意志が、厳しく私たちの胸に響く。       (小林美恵子)

     

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2007年3月30日 (金)

『玲玲の電影日記』(夢影童年)

監督:小江 
出演:夏雨 姜易宏 
2004中国 

 30代以上の中国人にとって文化大革命はやはりどうしても忘れることのできない歴史の記憶でしょう。その中で映画が生活の中で切っても切り離せないものとして存在したことも、さまざまな中国映画の中に描かれているところです。今回紹介するのはそんな1本。文革期まだ幼児だった女性監督による少女期~現代の物語。昨年初夏に日本では公開されました。以下は『トーキング・ヘッド』28号(アトリエ・サード2006・10)に掲載したものから、一部転載します。

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 1972年生まれの小江監督が自分と同年の少女を主人公とし、文革後の中国西北部の田舎街寧夏を舞台に描いたある母娘の物語である。題名の示すとおり、この映画の一方の主人公は、もともと女優志望だった母が出産によって進路を阻まれながらも生きる拠り所とし、また母と同じく女優にあこがれ、やはり挫折するその娘も愛する映画の数々である。
 文革中、映画女優を目指す娘が恋をし妊娠する。恋人は逃げ、ひとり、子を産んだ彼女は街の人々に迫害されるが、当時上映可能だったアルバニア映画『寧死不屈(Victory over death)』に励まされ洗濯婦となって娘玲玲を育てる。母に好意を寄せる映写技師潘叔叔に可愛がられ、落第坊主の転校生毛小兵と仲良くなり、野外映画会を楽しみに玲玲は幸福な少女時代を送る。文革が終わり、その間上映禁止だった『馬路天使』(監督=袁牧之)が上映される日、母娘と小兵は街の映画館に繰り出すが満員で入ることができない。1937年に作られた上海映画の名作はこんなふうによみがえったのだ。厳しい思想統制の中でも人々の中に生き続けていたロマンへの渇望が解放される歓びに満ちた場面である。
 やがて家族に虐待された小兵が安徽省の祖母のもとに去り、母が潘叔叔と結婚し弟が生まれると彼女の幼い日は終わる。貧しい生活のなかでの弟への愛や嫉妬が描かれる。女優への道よりは上級学校への進学を強いる両親との確執が、TVにおされて野外映画上映会も最後という日、彼女の過失とも言える弟の死を招き、彼女と両親の早い決別を招く。そして物語は大人になり大兵と名乗る小兵の、北京での玲玲との不思議な再会へと展開する。
 母娘の、洗濯婦の貧しい暮らしには不似合いなおしゃれな服装、未婚で出産しつるし上げられた彼女が数年後には街の人気者になるその過程、義父に殴られ聴力を失い、中学にも行かず家出して一人住まいの部屋いっぱいに映画機材などをそろえる玲玲の暮らし振り、彼女が、北京に出てきて胡同に暮らす老いた両親をどのようにして見つけ出し、どのようにしてその両親の住居を見下ろす部屋を手に入れることができたのか、またあまりにも偶然性の高い毛大兵との再会など、細かく見ていけば不自然さが目につく映画である。
テーマそのものも、前半は母の人生を描いているのだが、中盤に至って児童映画化して感動を強要する強引な転換で、率直なところ人生とか人間とかが本当に描けているのかという疑問も残るのだが、この映画の語り手となる毛大兵を演ずる夏雨がとても生き生き映画を愛し、好奇心と同情をもって幼馴染の人生を辿ろうとする青年を演じていて、求心力がある。おもな登場人物は全員映画大好き人間で、なにより野外映画会で次から次へと上映される60年代の中国映画が興味深い。中国映画好きにはやはり必見の一本であろう。
 中国の人々は概して日本人よりはずっと映画好きだと思われるが、それをよく示しているのは中国映画によく登場する野外映画である。やはり文革を描いた『中国の小さなお針子』(2002年監督=戴思傑)にも下放された学生が任務として朝鮮映画『花売り娘』を見に行き、村人たちに語るという場面があった。字も読めず、バイオリンも見たことがない山村の人々にとって映画は外の世界への唯一の扉であったのだろう。(小林美恵子)

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2007年2月21日 (水)

『インファナル・アフェア(無間道)』

監督:劉偉強・麥兆輝 
出演:劉徳華 梁朝偉
2002香港 
 

 『ディパーテッド』(マーチン・スコセッシ監督 レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン主演)はご覧になりましたか?これこそ、かの名作『インファナル・アフェア』のハリウッド・リメイク版。公開されてすぐブラッド・ピッドが製作権を買い取ったとか・・・さて、5年後のハリウッド版、それなりの出来といえば出来なのですが、やはりあの香港版をもう一度見たいと切に思わせる・・・迫力はあるけれどしっとり感とか「業」とかの世界とは無縁という感じでした。さて、そこで、多摩中電影倶楽部記念すべき第30回(紙版を含み)では香港映画『インファナル・アフェア』をご紹介します。

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  主人公は警察学校同級生の二人の青年。ヤン(トニー・レオン)は覆面警官としてやくざ組織に潜入、もう一人のラウ(アンディ・ラウ)はやくざ組織の一員であることを隠して警察学校に入学し、やがてエリート警察官になりながら、警察内部の情報を組織に送り続ける。以来、10年以上にわたる潜入でヤンは疲れきり、ラウもまた、恋人との結婚を控え秘かに「善人」であることを選びたくなる。あるとき大がかりな麻薬取引に絡んで、警察も組織も内部に相手方の内通者がいることを疑いはじめる。そして皮肉にも彼らがそれぞれ内通者のあぶり出しを命ぜられ、事態が動き出す・・・・
 

 ギンギンのアクション映画でありながら、人間関係とか「業?」とかを絡ませて苦しむ主人公というのはいかにも香港映画!(で、私はダイスキ)そして終わり方がまさに「無間道」。大陸はこれを許さず勧善懲悪の別ヴァージョンを作りました。ハリウッド版の終わり方はどちらとも違いますが、発想としては大陸版に近いかな・・・しかし、この映画の物語が終わったあとのラウと婚約者の人生こそ「無間道」そのもので、これこそが香港版のオリジナルな深さであり、さらに『無間道Ⅱ』『無間道Ⅲ』まで作り得た商魂ともいえるかもしれません。一言で言えば成熟(退廃もある、もちろん)社会香港を感じさせ、香港映画らしさ満載の快作です。役者も皆熱演で、警察上司のアンソニー・ウォンがすごっくいい。見直しました!死に方もすごい!その死に、自分の存在を脅かされ心が引き裂かれていくヤンがうまい。ラウが警察に潜入したマフィアであることを知った婚約者サミー・チェンがショックをしっとり乾いてという感じで見せてこれも見直す!そしてなによりⅡ、Ⅲで暗い無間地獄を歩くことになるアンディ・ラウ。彼もこの映画で新境地を見せました。ストイックに、思いを胸に秘めた彼のアクションは最新作、現在公開中の『墨攻』にも引き継がれています。

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電影倶楽部『華影天地』30回の記録

第1回 03/10/4   『我的兄弟姐妹』
第2回 03/11/15   『北京バイオリン』 『胡同模様』
第3回 03/12/13  『延安の娘』
第4回 04/1/24  『北京の思い出』
第5回 04/2/28  『双旗鎮刀客』
第6回 04/4/17  『味道』
第7回 04/5/29  『太陽の少年』
第8回 04/6/26  『欲望の翼』
第9回 04/7/24  『青い凧』
第10回04/9/25  『上海家族』
第11回04/10/16  『恋恋風塵』
第12回04/11/27   『悲情城市』
第13回05/1/15    『大英雄』 
第14回05/2/26    『酔画仙』(韓国映画)
第15回05/4/23    『故郷の香り』
第16回05/5/21  『わが家の犬は世界一』
第17回05/6/17 『追憶の上海』
第18回05/9/3  『失われた龍の系譜』
第19回05/10/29 『涙女』
第20回05/12/10  『小城故事』』
第21回06/2/4  『旺角黒夜』
第22回06/3/25  『プロミス』
第23回06/4/22 『単騎千里を走る』
第24回06/5/20 『五月之恋』
第25回06/7/15 『上海ルージュ』
第26回06/9/25 『馬路天使』
第27回06/10/7 『初恋のきた道』
第28回06/11/18  『百年恋歌』』
第29回07/1/20 『ウィンター・ソング』
第30回07/3/10 『インファナル・アフェア』

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2006年12月15日 (金)

『ウィンター・ソング』(如果愛)

監督:陳可辛(ピーター・チャン)
出演:周迅 金城武 張学友 池珍熙
2005香港・中国

 年明け1月の映画は、この冬日本公開されたばかりの新作『ウィンター・ソング』(原題:如果愛 パーハプス・ラブ)です。この映画は香港・中国・シンガポールなどでは昨冬ちょうど12月~1月の公開でした。日本人も出演していた『プロミス』や『単騎千里を走る』などはほぼ同時公開でしたが、たいていの映画は他のアジア諸国より、1年か、それ以上も遅れて公開されるのが普通で、日本はアジア映画市場ではないのだなあとつくづく感じさせられます。とはいえ、この映画、11月末に発表された今年度の台湾金馬賞で、監督賞および主演女優賞を受賞しました。その意味では今、中国でも話題になっている作品とも言えるかもしれません。  

            *          *          *

 最初のシーンは上海の撮影所に向かうバスの中。天使(『チャングムの誓い』のなかの「働く女性の理想の男性ミン・ジョンホさまこと)池珍熙(チ・ジニ)のモノローグから映画は始まります。やがて撮影所に着くバス。撮影が始まりここからはミュージカルの世界です。
 映画の中で映画を撮るという話で、劇中劇のほうはサーカス団を舞台に団長の女で団の花形、記憶喪失の「小雨」とその前に現れた昔の恋人という設定。この映画のヒロインを演じる孫納(周迅)という女優と監督の聶文(張学友)には関係があり、さらにこの映画で彼女と共演する香港スター林見東(金城武)と孫納は無名時代に北京で恋人どうしだった過去を持っています。。そして10年振りに捨てられた昔の恋人に再会した林見東の心がいかに動揺し、いかに孫納を求めても林見東になど会ったこともないという顔で相手にしない孫納。いっぽう監督の聶文も自分から心が離れていこうとする孫納に悩み、スター俳優の出演がダメになり自分が団長を演じることにするものの、この劇中劇のサーカス団での三人の関係に悩み(ということはとりもなおさず、まったく同じような関係にある映画製作現場の三人の関係に悩むということでもある・・)そして撮影の進行にも悩み、撮影は滞りがち。そんな撮影中止のある日、林見東は孫納を無理矢理かつて北京で一緒に住んだ孫納の家(というか倉庫の一隅なのだが)に連れ出します。

 サーカス団員に扮する人々のきらびやかな衣装や踊りは中国の雑技団でありながらハリウッドのミュージカル風。この華やかな映画撮影の現場と、林見東の回想、そしてやがて現在の二人が訪れる北京の雪と氷に閉ざされた世界の対比、昔の貧しい二人と、スターになった二人の対比、劇中劇の登場人物としての彼らと、実生活(この映画の中のという意味ですが)の二人の対比、さらに歌手としての張学友が朗々とオペラ風に歌う劇中劇のミュージカルシーン、台湾出身の日本人でもある金城が扮する北京に留学する香港人という設定、もちろん女優としての周迅と彼女の扮するサーカスの花形ブランコ乗りという設定など実際の俳優たちと映画の登場人物の重なりや対比などが絡み合い、さらにそこに天使=狂言回しの池珍熙がさまざまな役に扮して絡むので、目もくるめくようで、かなり複雑。でも張学友の歌のうまさをはじめ歌やダンスはそれだけで楽しめますし、周迅の七変化的なさまざまなファッション、答えてくれない彼女を劇中劇でも映画の中でも愛する金城の愁い、美しい画面など見どころ満載の映画です。

 主な出演者のうち普通話の母語話者は周迅だけだと思いますが、一場面を除いて(さあ、それはどこでしょう?)すべて普通話。しかも自分でしゃべっているようです。
 監督の陳可辛(ピーター・チャン)は『ラブ・ソング』とか『君さえいれば・金枝玉葉』など楽しめるスター映画でありながら、きちんとした社会的視点を内包した佳作を作ってきた人です。

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中国★上海映画祭

◆12月16日~12月22日 テアトルタイムズスクエア(新宿南口タカシマヤタイムズスクエア12F
◆ヒマラヤ王子(胡雪樺2006)チベットを舞台にシェークスピア復讐劇をベースに描く巨編
◆長恨歌(スタンリー・クアン2005)戦後の激動の上海を舞台に生きる女性の栄光と挫折
◆自娯自楽(李欣2004)ジョン・ローン、ココ・リー主演。中国の農村を舞台に村人たちが映画を撮る・・・・
◆上海倫巴(彭小蓮2006)1940年代の上海を舞台に描かれる大人の恋愛映画
◆上海アニメーション

などを上映

                                       (小林美恵子)

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2006年10月19日 (木)

『百年恋歌』(最好的時光 スリー・タイムズ)

監督:  侯孝賢 
出演:舒淇 張震 
2005台湾 
     

 今月ご紹介するのは侯孝賢の最新作、珠玉の一篇、『最好的時光』(邦題『百年恋歌』)、10月21日よりシネスイッチ銀座で公開される作品です。
 この映画は舒淇(スー・チー)、張震(チャン・チェン)という今の台湾では最も時めく存在(だと私は思う・・2人とももうアイドルではないけれど成熟度を増して素敵になった)2人を主人公に、時代を変えて撮った3本のオムニバス作品。
 侯孝賢自身の青年時代の思い出をもとに作ったという1966年の兵役中の青年の、撞球場を渡り歩くスコア嬢への淡い恋を描く『恋愛夢』、1911年の遊郭を舞台に高級妓女と、妾を持つことに反対する思想ゆえに彼女への恋を実現できない若い理想派の詩人を描く『自由夢』、そし現代の台北を舞台に写真の仕事をする青年への思慕と、同居する同性愛の関係にある女性の執着との間で引き裂かれる女性を描いた『青春夢』から成っています。
 前2本は暗い室内から正面にドアが切られて逆行で光が入るという舞台のような画面構成、その中を交錯する人々の動きも計算されつくされた映像で、映画的な美とはこういうものかと思わされます。しかも2人の関係に焦点をしぼり、きわめてシンプルな美しさでため息が出るよう。最後の1本『青春夢』はブルー系に抑えた色の美しさ、疾走するバイク、現代の台北下町の焦燥的な雰囲気があり、いかにも危うげな感じの舒淇が激しく青年を求めながら感情を抑えている感じがとても切ない。
 どの映画も台詞は最小限に押さえ、表情や全体の雰囲気で表現しています。「ご飯は食べた?」とか「仕事は何時に終わるの」と聞く張震にほとんど単語でしか応えない舒淇が、最後に彼から延べられた手を握る『恋愛夢』のラストシーンとか、舒淇がパジャマ?スタイルにコートだけを羽織り、止まっている車の陰から覗くように彼のバイクを待つ『青春夢』のひとこまとか、忘れがたい場面がたくさんあります。特に、『自由夢』は昔風のサイレント・字幕入り(字幕は旧式の文語でややなじみにくいかも)。これは役者二人が昔風の台湾語をしゃべれなかったからということだそうで、監督の現実的対応とそれを生かす力に脱帽しますが、二人の目の演技もそれに応え、かえって雰囲気のある傑作となりました。『自由夢』は『海上花(フラワーズ・オブ・シャンハイ)』の世界をさらに洗練させたような作品ですが、張震の辮髪姿は梁朝偉の上を行く。ある人曰くトニー・レオンは南方系の顔立ちだから・・・なるほど、そういえばそうかも。『恋愛夢』は『恋々風塵』や『フンクイの少年』あたりの世界、『青春夢』はもちろん『憂鬱な楽園』や『ミレニアム・マンボ』の世界を受け継いで、言ってみればこの映画は、侯孝賢前半生の集大成という感もあります。
 去年(2005年)の東京フィルメックスのオープニング上映で見て、劇場公開されたら是非もう一度見たい、と思いながら1年。こう思わせるところが侯作品のすごさだろうと思います。                                                                   

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10・11月は中国語圏映画目白押し!

 侯孝賢映画祭・・これはもう終わってしまいましたが。10月20日まで3週間にわたり、彼のほとんどの作品が上映されました。初期の傑作『坊やの人形』ようやく見ました。最好!

19th東京国際映画祭・・10/21~29「アジアの風」・・あまりにたくさんの作品群で、見たいけれども見られないものもいっぱい。公開に期待して。クレィジィ・ストーン(ニン・ハオ・中国)/四大天王(ダニエル・ウー・香港)/一年の初め(鄭有傑・台湾)/永遠の夏(レスト・チェン・台湾)/不完全恋人(DJチェン・中台)/シルク(スー・チャオピン・台湾)/マイ・マザー・イズ・ベリーダンサー(李公楽・香港)/おばさんのポストモダン生活(アン・ホイ・中国)/青春期(唐大年・中国)/イサベラ(パン・ホーチョン・香港)/父子(パトリック・タム・香港)/アリスの鏡(ヤオ・ホンイ・香港)等々

7th東京フィルメックス・・11/17~26これもすごい!三峡好人(ジャ・ジャンクー)/黒社会(エレクション1・2一挙上映・ジョニー・トー)黒眼圏(蔡明亮)などなど!                                  (小林美恵子)

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